家を建てる
オール電化

2007年10月 Penguin!!

オール電化

Yahooの知恵袋など見ていると、オール電化への関心が高いことがわかります。コストはどうか、電磁波はどうか、リフォームでもできるのか、災害時はどうか。また、その回答に、ソーラーパネルのことばかり書いてあるのも奇異です。

まず、オール電化とは、住宅のエネルギーを全部電気でまかない、ガスや灯油を使わないことです。ソーラーパネルとは関係ありません。しかし、オール電化のモティべーションとして、エネルギーの効率利用、あるいはCO2削減に関心のある人は多いので、太陽光発電まで突き進んでしまうことは理解できます。従来はガスが使われることが多かった、給湯、調理、また灯油ヒーターが主役であった暖房に電気を採用するかどうかがポイントになります。消費者としては、オール電化にしてガスを契約しないと、電気料金が5%割引になるというのがうれしい。電気会社にすれば、ガスの分も電気を使ってくれればもうかるということでしょう。反対に、オールガスにするというのは、不可能ですから、姑息な商法にも思えます。

オール電化は、住宅の断熱性能と大いに関係があります。CO2削減に最も役立つ方策は、電化とか機器の効率(COP)改善などではなく、断熱性能の改善だと言われます。断熱を上げるには、気密もよくしなければなりません。断熱材の気密が悪いと低温の壁面で結露して構造体が腐ること、24時間換気の効率が落ちるからです。気密が良い密室で、ガスや灯油を燃やすのは、一酸化炭素中毒の恐れがあり、2酸化炭素が増えるのもよろしくありません。断熱が良ければ、冷暖房にそう大きな能力は必要ありません。また、蓄熱式の暖房が使えるようになります。というわけで、次世代省エネ住宅基準ができて、高断熱の家が推奨されるのと並行して、オール電化が普及してきました。TVのCMも一役買っているかも知れません。

省エネ効果、CO2削減効果

オール電化で省エネ効果を上げるには、熱エネルギー増倍効果のある、高効率のヒートポンプ(エコキュート)で給湯、暖房することが重要です。熱エネルギー増倍効果というのは、私の造語ですが、ニクロム線による電熱のように、熱のないところに電気で熱を作るのではなく、エアコンのヒートポンプを使って、一方を冷やし、他方を暖めることで、消費電力以上の熱を得る効果です。テレビCMでは、空気中の熱を取り出すと表現しています。電熱では、1KWの消費電力で1KWの熱が出るだけですが、ヒートポンプでは、3-5KWの熱を出せます。この倍率をCOP (coefficiency of performance: 効率化係数)と呼びます。

発電の元になるエネルギーは、原子力の割合が増え、38%、これと水力の10%を足した48%は、CO2を出さない電気です。残りの52%は、火力で石炭、石油、ガス(LNG)を燃やしますから、CO2を出します。この三つの熱源のうち、最もよく使われるのはLNGです。LNGの成分は、80%以上がメタンで、さらに重量当たりの発熱量が大きいので、石油や石炭と比べると、CO2排出が何割減かになります。だから、電気で熱を作れば、ガスを燃やす熱よりCO2発生量は抑えられます。ただし、発電の効率はせいぜい50%であり(残りの50%は、海水を温めるのに使われてしまいます)、送電でも10%近くが失われますから、電熱にしたらやはりガスや灯油を直接燃やすより良いことはありません。高効率のヒートポンプ(エコキュート)を使うことが肝要です。

IHコンロは、無駄な発熱が減りますが、熱エネルギー増倍効果はありません。ガスやニクロム線電熱による調理では、炎や発熱体から、鍋底に熱を移す効率が100%になりません。よくわかりませんが、おそらく70%ほどの熱効率でしょう。ガスのエネルギーの30-50%だけが調理に使われ、残りの50-70%は、付近の空気やガスコンロ自体を暖めることで捨てられますhttp://www.d2.dion.ne.jp/~chusan/vselec/ih_8.htm 。IHコンロは、直接に鍋底に誘導電流を流して発熱させますので、熱伝導効率が大幅に向上します。しかし、交流100Vの電力をいったん直流に変換し、数十キロヘルツの高周波に変換するためにおそらく20%くらいの損失があります。だから、ほとんど利得がないと思います。

IHは、炎を使わない安全性、掃除の簡単さ、が特に評価できる点です。

電気契約

省エネだけでなく、ランニングコストの低減もねらうと、夜間電力を使うことになります。通常の電気契約は、一日中同じ約20円/KWhという単価ですが、電化上手などのオール電化向き契約では、昼が30円、朝晩が20円、夜間が7円になります。

夜間電力を有効に使うには、夜間にヒートポンプで作った熱を、朝、昼、夕方まで蓄えておく仕組みが必要です。普通は、温水にして蓄熱します。水は比熱が高いので、合理的です。床下のコンクリートに蓄熱して床暖することもできます。割高な昼間電力は、暖房、給湯に使わないようにするのが電気代を安くするこつです。

オール電化は、どうしても電気使用量が多くなるので、契約アンペア数が増え、基本料金が上がります。ガス併用の家庭では、30,40,50A位でしょうが、オール電化は、60A 以上になります。電化上手の契約では、60-100Aは、2100円で一定なので、100Aの契約にするのがお得でしょう。大きければブレーカが落ちることもなくなりますから。

電気代

オール電化にすると電気代が上がるが、ガス代がゼロになる。オール電化とガス混用とどっちがお得なのかが問題です。答えは、夜間電力とヒートポンプにあります。オール電化でエネルギーコストを下げるには、次の二つが必須です。

  1. なるべく単価1/3の夜間電力を使う
  2. ヒートポンプ(エコキュート)で給湯、暖房をすると3−5倍効率がよい

普通の電力で電熱器で熱を作る(COP=1) と、ガスの2-3倍のコストがかかります。夜間電力ならば、電気の方が割安です。また、エコキュートでもガスより割安になりますが、灯油にはかないません。夜間にエコキュートで熱を作れば、灯油の半分以下のコストで熱が作れます。ただし、後述するように、外気温が低いと効率が劣化します。

この方法をうまくやるには、夜間作ったエネルギーを昼間解放するための蓄熱が必要です。レンガに蓄熱する方法もありますが、レンガなどより比熱の大きい水を使うのが最も合理的です。要するに、エコキュートです。拙宅では、このほかに床下のコンクリートに蓄熱して床暖として使います。これらによって、床面積当たりのエネルギーコストは、ガス併用時代の2/3くらいになりました。

電気代は安くなりますが、オール電化には、エコキュートなどの機器購入のための初期コストが重くかかります。また、これらのハイテク機器は、信頼性がよく吟味されておらず、10年くらいの寿命だとも言われています。毎月節約できる電気代で、これらの初期コスト、機器メンテ費用をまかなえるかは、大いに疑問だと思います。

安全性

オール電化は、ガスより安全性が高いのも長所です。炎がありませんから、発火の危険性は少ない。エコキュートの室外機は高温になりますが、100度を超えることはない。IHも、炎がありません。天ぷらの温度調節も自動です。長時間スイッチが入りっぱなしになっていると、自動的に切れます。年寄りが、コンロを消し忘れても大災害になることはあり得ません。灯油ストーブもガスストーブもないので、燃えることはないし、空気も汚れません。

快適性

灯油ファンヒーターで暖房していたときは、ときどき換気が必要でした。暖めておきながら冷気を導入するのは、エネルギーの無駄です。オール電化では、暖房で空気を汚すことがないので窓を開けて換気をする必要はありません。もっとも、最近の住宅は、改正建築基準法によりすべて24時間換気システムが導入されているはずですので、換気では差がないかもしれません。冷暖房の方法で快適性は変わりますが、オール電化とはあまり関係ないでしょう。

調理:IH

IHは、数十キロヘルツの回転磁界を作り、電磁誘導で鍋底に強い電流を発生させ、ジュール熱を得ます。50-60Hzの交流電源を数十KHzに変換するのに損失が出ます。いったんゼロHzの直流にし、数十KHzでスイッチングし、フィルターするどの段階でもロスが出ますしかし、ガスのように、外に逃げる熱が全くなく、発生させた熱のほとんどが鍋を温めるのに使われます。ですから、ガスとくらべても同じくらいのエネルギー費であり、夜間時間帯に料理すれば、IHの方が安くなります。

料理のしやすさについては、賛否両論です。火力が弱いという人がいますが、私はそれを感じたことはありません。計算上、3KWのIHコンロは、ガスより強力ですし、実際、お湯が沸くのはガスより速い。火力を間違いなく12段階に変えられるのは非常に便利です。ガスでは、とろ火、弱火、中火、強火くらいしか区別できません。「目玉焼きは6でやるとちょうど良い」と覚えておけるのは失敗がなくてよろしい。80Wというような最弱の火力が安定に出せるのも長所です。ガスでは弱すぎると少しの風や吹きこぼれで消えてしまい、危険です。

ゴトクがないので掃除も簡単です。夏の料理でもキッチンはそんなに暑くなりません。反対に、火の色を見て火力を判断することができません。IHにしてから、換気扇が汚れなくなりました。最初は、わけもわからず喜んでいましたが、喜ぶべきではないと教えられました。たいてい、換気扇は、調理場の、コンロの上方でコンロからの熱いガスが吹き上がる場所に付けられています。コンロで熱された空気が強い上昇気流となり、換気扇に吸い込まれていきます。IHでは、炎が上がらないので、この上昇気流が非常に弱いのです。フライパンなどから生じる油の蒸気、油滴は、この上昇気流によって換気扇に運ばれるのですが、IHでは、上昇気流が弱いので、フライパンの油は、換気扇に吸い込まれず、周囲に飛び散っている、というわけです。つまり、IHでは、換気扇が汚れない分、キッチンや屋内が油を吸い込んでいるはずです。おそろしいですねぇ。最近は、上昇気流を起こすべく、油を使う料理では、換気扇を弱ではなく、強にしています。

給湯:エコキュート

CO2を冷媒にする技術が完成され、ヒートポンプで90度以上の高温のお湯をわかせるようになったエコキュートが、オール電化の立役者です。エコキュートというのは、エコな給湯とかわいいを引っかけたのでしょう。オヤジっぽいですが、わかりやすいネーミングです。

ヒートポンプの欠点は、外気温で効率が変わることです。外気温が下がって、より大きな熱量が欲しいときに効率が落ちる、というがっかりな性質を持っています。夜間電力でお湯を沸かします。春夏秋は良いのですが、厳冬期は、夜間電力の8時間だけでは全量を沸き上げられないことがあります。それどころか、夜中に室外機の温度が零下に達し(寒いところでクーラーを効かせているようなもの)、外気が湿気を帯びていると、一気に結氷します。そうすると熱を吸収できなくなるので、霜取りヒーターが動作します。これは全く無駄な電力です。

もう一つ、信頼性が高くない、まだ若い技術なので実績が少ない、というのも心配要因です。

エコキュートの湯沸かしアルゴリズムと設定方法というのが、くせ者です。基本的に、深夜のみモードと、おまかせモードのどちらかで、湯を少なめ、標準、多めを選びます。湯が足りている場合はどの設定でも問題ありませんが、湯が多すぎれば無駄ですから、必要ぎりぎりを沸かすようにします。ぎりぎりの度が過ぎると、湯切れを起こし、シャワー中に湯が水に変わって悲鳴を上げることになります。節約のため、ぎりぎりの量を沸かすように設定するが、予想を上回る消費があると、どうしても湯切れするのです。

エコキュートというのは、その日必要な湯量を予測して、朝までに沸き上げます。予想がはずれると、湯切れします。湯ぎれしそうになるとあわてて湯を沸かす、夜間電力でない時間帯であっても湯ぎれするよりはまし、というのがおまかせモードです。販売店は、「冷たいシャワーが出た」と文句が出るのがいやなので、湯ぎれしないように、この設定を勧めます。ところが、消費者はケチですから、深夜のみモードにして、昼間に沸かし増しするのを嫌います。そして湯切れを起こします。深夜のみモードでは、必要な湯量を沸かせていないのか、その日のお湯の消費量がいつもより格段に多くて湯が足らなくなったのかは、よくわかりません。深夜のみでもおまかせでも、エコキュートの制御装置は、過去一月分くらいのお湯の消費量から、その日、その曜日の消費量を予測します。湯量を少なめ、標準、多めに選んでも、実際は、すぐに切り替わるのではなく、過去の消費湯量を参照しながら徐々に変わっていくようです。しかし、所詮、お湯の消費量など予測困難です。ある日お客が来ることを機械は知り得ませんし、どろんこ遊びしたから昼間からお風呂に入ることも知りません。そういう設定を人間にやらせずに、機械がやってやろうというのが間違っています。機械の予測はほとんど常にはずれて役に立たず、腹立たしさだけが残ります。人間にやらせておけば、自分が馬鹿だったとあきらめるのに、です。

そういうわけで、私は、お湯の設定は、深夜のみモードで、お湯は多めにしています。お湯が足らなくなって、昼間に沸き増しするのはいやです。それくらいなら、深夜電力で多めに沸かしておいてくれ、と考えてのことです。

暖房:床下蓄熱

というわけで、拙宅の暖房は、夜間電力で運転するヒートポンプで床下のコンクリートに蓄熱する、床暖です。その快適さと経済性は、あちこちに書きましたが、一つ付け加えるなら、部屋の中に何も暖房機らしいでっぱりがないことです。一見、どこにも暖房機(実は、冷房の室内機も)がありません。別に床が暖かいわけでもない。実際は少し暖かいのですが、せいぜい28度くらいで体温より低いのでそれと感じません。それでいて、この暖かさは何?という不思議さがよいですね。昼間は音もありません。とても静かです。夜は、ヒートポンプの室外機がうんうん言っているようです。

蓄熱型なので、今すぐの温度調整ができません。外気が暖まると、部屋の中も暖まる傾向があります。でも、高温源がせいぜい30度くらいなので、暑すぎて困ると言うことはありません。また、夜間電力の時間帯が終わる7時にヒートポンプが止まるので、その後、温度が下がるように思っていましたが、実際は、部屋の温度は夕方まで徐々に上がり続けます。1日の温度差は、せいぜい2度で、たいしたことはありません。

床下蓄熱の欠点は、2階が暖まりにくいことでしょう。2階には、何も暖房がありません。1階から暖かい空気が対流してくること、躯体を通した熱伝導を期待しています。吹き抜けがあればもっと熱が拡散したかも知れません。よく、吹き抜けを作ったので一階が寒いとか、リビング階段から暖気が逃げる、などとぼやいている人がいますが、全く逆です。そういうチャネルで熱が拡散して欲しいと思っています。それで、階段を上がったばかりの2階ホールはかなり暖かくなるのですが、寝室、子供部屋までは広がりません。寝室は、昼間、ドアを開けています。ちょっと間抜けですね。子供部屋はそうもいかないらしく、つらそうです。

ソーラーパネル

ソーラーパネルの設置には、3KWで200万円以上かかります。これを発電量で取り戻すには、20年はかかります。2012年くらいまで待てば、技術革新があるかもしれません。

電磁波

オール電化で電磁波の影響を気にする人がいます。テレビで見ましたが、山の中でひっそり暮らさないといけないような、電磁波に過敏な人というのはいるらしいですね。電磁波で白血病の罹患率が上がったのデータもあるようです。

しかしねぇ、あまり気にする必要はないと思います。電磁波といったら、ラジオやテレビの電波、携帯電話の電波などもそうですが、光も電磁波であり、毎日太陽からとてつもなく強力な、広い波長帯の電磁波が降り注いでいます。それにIHコンロの電磁波が加わったらどうだと言うのでしょう。確かに、10−20キロヘルツという、電磁波としては低い周波数の電磁波は、何か特別な影響があるかもしれません。そのあたりの周波数は、オーディオと同じなので、ヘッドホンで音楽を聴いている人もかなり浴びていることになります。ですが、そんな低い周波数の電磁波は、よほど長い電線を伸ばさないと電磁波として射出されないはずです。射出されないから、ヘッドホンまで電線を伸ばしても減衰することがなく、IHも無駄なく調理ができているというわけです。というわけで、私は、全く電磁波を気にしていません。

メンテナンスコスト

5年間、このオール電化の家に暮らす間に、ヒートポンプ系が3回故障しました。エアコンの室外機の交換が2回、エコキュートのバルブの交換が1回です。初期故障もありました。いずれも、保証期間内と言うことで、無料でやってもらいましたが、今後は有料になります。大変心配です。