自転車は本当に省エネか?

2010-11-20

自転車は、効率的な乗り物です。もしあなたが通勤に自動車を使っているのなら、自転車通勤に切り替えることで省エネになり、おそらく地球温暖化対策にもなるだろうというのが通説です。本当でしょうか?

自転車をこぐエネルギー

次のグラフは、いろいろな動物が移動するとき、人がいろいろな乗り物で移動するときに、1kgあたりどれくらいのエネルギーを消費するかを示しています http://pds.exblog.jp/pds/1/201005/05/82/d0156782_14573259.jpg。

横軸は、動物1匹や乗り物1台+乗客の質量を示しています。昆虫は軽いし、ジェット機は重い。縦軸は、乗客の1グラムを1キロメートル運ぶのに要するエネルギーをカロリーで表示しています。ネズミのたぐいは効率が悪く、意外に昆虫も効率が悪い。羽ばたいて空を飛ぶのは効率が悪いのでしょう。スケールが小さいので、昆虫にとっては、空気はとても粘っこい媒体と思われているはずです。相対的に表面積が大きいので、風の抵抗を強く受けると考えてもよいでしょう。同じように空を飛ぶ乗り物であるジェット旅客機は、相当に効率が良いのは、まさに昆虫の逆で、薄い空気の中を流線型にして風の抵抗を減らした機体で飛ぶからでしょう。しかし、そのジェット旅客機も、ウマより効率が良いわけではない。空気よりもっと粘っこい海水の中を泳ぐサケはさらに効率が良い。一般に魚類は効率が良い。流体力学的にはジェット旅客機と同じようなことでしょうが、浮力(揚力)にエネルギーを使わなくても良く、したがって揚力を得るためのかなりの高速を維持する必要がないからでしょう。飛行船をゆっくり飛ばしたら、同じように効率が良いかもしれません。

しかし、これらを抜いて、ダントツに高効率なのが自転車です。この図では、70キログラムの人が乗ると、10km行くのに100Kcalということになります。どうもこの数字は過大です。自転車探検隊http://www.geocities.jp/jitensha_tanken/energy.html  などでは、この3倍くらいのエネルギーになります。ひょっとしたら、この値は純粋に摩擦や空気抵抗に打ち勝つだけの物理的動力エネルギーを指していて、乗っている人間の基礎代謝や筋肉の効率を度外視しているのかもしれません。人の動力効率は、15-30%です。乗る人の消費エネルギーで考えると、時速25Km/hで走ったとき、時間当たり500Kcalで、5km走るのに100Kcalというくらいが妥当なようです。

自動車との比較

自転車の燃費は、5kmに100Kcalという数字になりましたが、このままでは自動車のリッター当たり何キロメートルという数値と比較できません。

ガソリンというのは、1リットル当たり、およそ1万Kcalのエネルギーを出せます。自転車で1万Kcalで走れる距離は、500kmになります。自転車の燃費は、リッター当たり500kmという値になります。自動車は、リッター当たり10kmくらい、Priusが40kmとか言っていますので、12倍から50倍というすごい効率です。

1万カロリーというと、カロリーメイト100本、25箱です。500kmというと東京から京都まで自転車で行くとしたら、カロリーメイト25箱必要というのは当たっているでしょうか?

コストで考えると

問題は、人は、自転車をこぐカロリーをガソリンではなく、食物から得ているということです。1万kcalのカロリーメイトは、170×25=4250円にもなります。ガソリンが125円とすると、34倍です。同じ100円当たりにすると、自転車は11.8km、自動車は8kmから32km(prius)で、自転車はあまり得にならない。純粋なエネルギーとして、1kgで200円くらいの砂糖をなめながら走るとすると、砂糖は1グラム4Kcalで、1kgでは、4000Kcal。100円でちょうど100Kmになります。レストランやラーメン屋で1000円で1000Kcalの食事を摂るとすると、100円当たり5kmしか進めません。下に表にしてみます。

 100円当たり走行距離  自転車 一般自動車  Prius 
 ガソリン  (400km)  10km  40km
 砂糖  100km    
 カロリーメイト  11.8km    
 食事(1000Kcalで1000円)  5km    

こうして表に並べてみると、人間はガソリンで動くわけではないのだから、Priusより燃費を良くするには、砂糖しかない。ガソリンというのは、非常に安いエネルギー源であることがわかります。バイオガソリンというのは、いわば砂糖をガソリンに換えるわけですが、コスト的に非常に厳しいことがわかります。

自転車は環境に優しいのか

自転車は、高効率な乗り物ですが、エンジンたる人間が、生物由来の高級エネルギー源しか摂取できないので、コスト的には大いに不利であることがわかりました。しかしいくら高コストでも、石油を燃やすわけじゃないし、排ガスも出さないんだから、やはり地球にとっては自動車より優しいのではないかと、思いますよね?

その考えは完全に否定はしませんが、要注意です。人間の食べ物が高級、高コストということは、その製造に大量のエネルギーが投入されているからです。物やサービスの値段というのは、その製造にかかったエネルギーコスト以下には下げられません。競争が激しい産物では、まさにエネルギーコストと等価になります。人件費だって、人間が生活するために消費する食べ物や交通や通信にかかるコストであり、それは突き詰めるとエネルギーコストになります。場所代はどうか?便利な場所の不動産が高いのは、そこに人が集まれるからであり、なぜ人が集まるかと言えば交通が便利だから、つまりそこに行く移動=エネルギーコストが低いからです。移動代が安い分だけ、土地が高くなっているのです。レストランの食事が高いのは、材料が高いだけでなくその場所代や調理にかかる人件費がかかっているからですが、全部エネルギーコストに応じた費用になります。ですから、「高価な物 = エネルギー高消費型製造品 = 環境に優しくない」 というルールがおおざっぱに成り立ちます。

ですから、自転車は自動車よりも環境に優しい、というのは、かなり眉唾であると考えられます。ただ、上記の考察では、「エネルギー代」と言っていますが、これは石油代とイコールではありません。食品の製造や調理に、再生可能エネルギー、たとえば太陽エネルギーが使われていれば、純粋に石油を燃やして走る自動車よりは、地球に優しくなる可能性があります。

難しく考える必要はありません

環境に優しいことをしようなどと、難しいことを考える必要はありません。CO2がどうの、省エネがどうのと言わずに、一番安い移動手段をとればよいのです。先ほど言ったように、安い=エネルギー消費が少ない=環境に優しい、という式が漠然と成り立ちます。自転車は、5㎞に100カロリー、すなわちカロリーメイト一本、約50円です。これは、一般自動車のガソリン代とほぼ同じです。空気の抜けたママチャリならさらに効率が悪いので、気にせず自動車で行ってください。自転車をこげば、その分おなかがすいて、高級食材に手が伸びて、それが巡り巡ってより大量の化石燃料を消費します。

自転車は、複数で出かければ、人数分、台数分のエネルギーが倍々で増えます。自動車が、二人三人と乗車人数が増えてもガソリン代が変わらないのとは対照的です。ですから、夫婦そろって、あるいは友達とどこかに出かけるのに、ケチって自転車で行く必要はありません。二人以上ならまずまちがいなく自動車で行く方がエネルギー消費は小さい。Priusで行くなら、なおさらけっこう。

だけれども、タクシーに乗るのは駄目です。タクシーの運ちゃん(とその家族)を食わせるために、はるかに大量のエネルギーを消費します。だから、タクシーは高いのです。

自転車に活路はないのか

私も自転車乗りです。こんな結論になったのは意外です。自転車が地球を救うと信じていたのに。。。確かに救うとしたら、自転車をガソリンで動かすことでしょう。ガソリンは、圧倒的に安くて高エネルギーです。それで自転車が動けば、自動車より地球に優しいことは間違いありません。電動アシスト自転車というのは、かなりいい線行っていると思います。さらに、中国のように、完全電動自転車が認可されれば、CO2排出は減るでしょう。

おっと、自動車や、自転車の製造コストに知恵が回っていませんでした。自動車には、税金や保険、それに車検というコストもあって、これらが別のエネルギー消費につながっている可能性もあります。自転車だって、何十万円もする高級車もあります。以下のように計算すると、クロスバイクが一番安くてkm当たり6.5円、自動車が一番高くて20円になります。10㎞走ると200円です。自動車は、ガソリン代と同じ以上の製造・運用コストがかかっています。やはり、自転車の方が環境に優しそうです。ただし、クロスバイクを毎年1000km、10年間使い続けるのは、かなり根性がいりそうです。

 自動車  ママチャリ  クロスバイク  ロードレーサ  
 製造コスト  200万円 1万円  5万円  20万円  
運用コスト  20万円/年  1500円  1500円  1500円  自転車保険は年間1500円ほど
 総走行距離  20万km  0.2万km  1万㎞  2万㎞  
 総運用年数  10年  5年  10年 10年   
 km当たりコスト  10+10円  5+4円 5+1.5円   10+0.75円  

ついでにGDPの話

物やサービスの価格がエネルギー代だとすると、その総和である国のGDPも、エネルギー代にほかなりません。国全体で省エネが進めば、必ずGDPは下がります。経済は滞ったように見えるでしょう。実際、2009年度は、GDPが伸びず、CO2排出は10%も減ったと新聞報道がありました。これは、不況ではありません。省エネをするということは、単位通貨で買えるエネルギー(効果)が増えた、ということであり、GDPは下がっても、経済価値は減っていません。同じコストで遠くまで行けるし、お風呂の湯もたくさん沸かせる、ご飯もたくさん食べられる。幸せの量は何も減っていないのではないでしょうか。もう一つの問題は、こうして経済が効率化すると、少ない円でたくさんのサービスが買える、すなわち貨幣価値が上がり、円高になることです。


homeに戻る