FT991試用記


2016-May-7

1.1985年製TS-670

2015年11月にJQ1QNWを再開局しようとしたときは、とりあえず、145/435MHzのハンディトランシーバを購入して、認定番号で申請した。屋根裏の倉庫から引っ張り出してきた、1985年製、35年前のKenwood (トリオと言いたくなる) TS-670をラインアップに加えるには、JARDの保証認定が必要。実質何も検査しないで、番号を届けるだけの作業に1万円ほど支払うのは、愚かな法律の仕組みに思われるが、1月にはTS-670も使えるようになった。TS-670というのは、7,21,28,50MHzの4バンド、10Wのトランシーバ。改造すると、0.1-30MHzの受信が可能になる。こんな古い機械なのに、電源とアンテナをつないだら、一発で再起動し、受信はもちろん、送信機能もばっちり再生した。日本の通信機は、アマチュア向けでもすごい信頼性だわ。1998年頃に買った、Alincoのハンディ型のジェネカバ受信機は、あっという間に壊れたので、日本製が全部良いわけではなく、当時のKenwood(Trio)製がすごいのだろう。

TS-670は、懐かしくも美しい機械(当時、16-17万円だったと思う)なのだが、何せ老齢化している。押しボタンスイッチが、チャタリングを起こす。電源を入れた直後は、あるいはバンドを切り替えた直後は、受信感度が悪く、数分するとよくなる。これは、リレーの接点が劣化しているらしい。10Wの出力は、ちゃんと出ているようだが、にわか2アマとしてはものたりない。蓋を開けてポテンショを回すと、20Wくらいにブーストできるという情報もあるけどね。それから、出られるバンドが物足りない。WARCバンドが許可される前のマシンだし、WARCバンドに出たいとも思わないが、3.5MHz, 14MHzには興味がある。当時、7MHzは、7.0-7.1MHzの100KHzだけだったのが、今は7.2MHzまで広がっている。不思議なことに、この機械は、7.2MHzまで送信が可能である。そして、デジタル通信機能は、使えない。そういう技術が出る前の機械だからしょうがない。

というわけで、新しいトランシーバを購入しようと思った。パワーを上げたい。最近流行のスペクトラムスコープはバンドを見渡すのに使えそうだ。アンテナがぼろいから、アンテナチューナ付きがよい。いろんなバンドに出てみたい。デジタルもやってみたい。移動運用は、あんまりやらないだろうから、50Wにこだわる必要はない。移動では50W以下に制限されるから、今使っているTS-670 やTM-701で足りるだろう。そんな要件で製品を探すと、八重洲のFT-911とICOMのIC-7300が目に付く。20万円以上出す気はないから、こんなところに落ち着く。両方とも、最近出たばかりの人気機種である。7300の方が、新しくて、SDRだということになっている。両方ともバンドスコープが出るが、FT911は、受信とスコープのどちらか一方なのに対し、IC7300は、受信しながらスコープが出る。これは、圧倒的にIC-7300が良い。ところが、FT-911には、145/435MHzに出られる、それもC4FMというデジタルモードでも出られるという特長がある。かなり迷ったが、やはりVHF/UHFに出られるFT-911を選択した。IC-7300は、発売予告は出たものの、なかなか実物が市場に出てこなかったこともある。

2.FT-911の購入、設置、操作性

FT-911は、秋葉原のロケットで、2016年3月21日に購入。その2週間くらい前に、無線設備変更申請を出してあり、ちょうど新しい局免が届いたところだったから、買わないわけにはいかないのだ。お店に入って、すぐに、「FT-911をください」と言ったから、店員さんもびっくりしたろう。敵も然る者で、すぐに「何ワットですか?」と聞き返されたけどね。

マイクは付属しているが、電源が別途必要。100Wを出すには、ロスの100Wを加えて、13.8Vで20Aくらいが必要になる。車載も考えて直流電源を外から与える仕様なのだろうが、100Wでは移動できない。50W機までは、直流外部電源にして、それ以上は、電源内蔵で100V電源とすべきではないだろうか。ところが、FT-911をちょっと使ってみて、10Wも50Wも100W機も、部品と回路は全く同じで、ソフトウェアで出力を制限しているだけだとわかった。道理で、どの出力でも価格は全く同じなわけだ。そして、おそらく、このソフトウェア制限をはずす方法もどこかにあるのだろう。

電源をつないだ後、背面に接続するのは、アンテナである。HF-50MHzのM接栓が一つ、145/435MHz用のM接栓が一つ出ている。場所がないからこれくらいしかしょうがないのだろうが、TS-670は、50MHzを別コネクタに出していた。435MHzのような超高周波がM接栓でよいのか?ダイアモンドの435MHz八木アンテナもM接栓なのだが、UHFにはM接栓は使うべきでないというのが常識だったと思う。M接栓は、インピーダンス制御がまるでできていないので、UHFでは反射でまくりのはずだ。N接栓(かBNC)を使え、ということだった。気にせずパワーを出せと言うことか? 前面では、マイクロフォンをコネクタに挿すのだが、これがまたRJ-45コネクタという変態仕様。マイクに周波数のアップダウンボタンとかを付けたいからピン数を増やしたいのだろう。今はそういうものなのかなぁ。いずれ全部USBになったりするのか?

さて、電源を入れて受信を始める。私にとって、リファレンスになるのは、TS-670しかないのだが、リアルなスイッチやボタンが少ない。液晶とタッチパネルで操作するようになっている。スマフォ世代にはそういうことなのかもしれんが、使いやすくはない。操作すべきパラメータが、以前に比べると圧倒的に増えたのでしかたがないのだが、メニューで機能を選び、マルチファンクションダイヤル(ポテンショ)で値を変更するのは、手間がかかる。メニューも、機能が多いので一場面には収まらず、数画面をあちこち遷移する必要がある。たとえば、受信では、プリアンプを入れるかどうか、帯域幅をいくらにするか、DNR(digital noise reduction)の効きをどれくらいにするか、ノッチフィルタの周波数をいくらにとるか、IFシフトなど、変えたいモノが5-6個はある。送信用には、メーターには、ALC/SWR/Powerのどれを表示するか、出力ワット数をいくらにするか、マイクロフォンゲイン、コンプレッサの効かせ方などをしょっちゅう変える。いやその前に、バンドを選んだり、変調モードを選ばなければならない。VFOとメモリの切り替えも必要だ。などなど、いじるパラメータはたくさんあるので、頻繁にメニュ操作が必要になる。メニューを出すと、バンドスコープが出なくなる。メニューの他に、バンドスコープのスィープ幅や、RTTYの種類や、なにやらなにやら、めったに変えないけれど変えられないと困る設定パラメータは、100個以上ある。うーん、こういうことになるのはよくわかるので、トランシーバの小さな画面に出すのではなく、タブレットやPC の画面に出すようにしたらどうだろうか。

3. FT-911の受信性能

トランシーバというのは、transmitter-receiver なのだが、ほとんどの時間は、receiverとして動作している。transmitterは、大電力を扱うが、receiverは微弱電波を扱うので、両者の基本仕様は正反対で、こういうものたちを一つの箱に収めるのは、かなり難儀なことだと思う。トランシーバを比べるときに、これは良く飛ぶ、こちらは飛ばないという比較をすることはない。所定の出力が出ていれば、飛びを決めるのはロケーションやアンテナであって、送信機の性能は、せいぜいが変調の深さくらいのことだ。だから、トランシーバの性能とは、受信機の性能に他ならない。

しかし、受信機の性能差というのもほとんど存在しないようだ。感度や選択度は、もう限界に達している。感度には、内部で発生するノイズの量が重要だが、HFでは、環境雑音が大きいので、内部雑音は問題にならない。TS-670と違うのは、プリアンプが付いていること、AFフィルタがついていること、DNR(Digital Noise Reduction)が付いていることだろう。実は、内蔵スピーカの質が問題だったりするかもしれない。

3-1. プリアンプ

HFでは、10dBずつ2段階のプリアンプを入れることができる。プリアンプというのは、アンテナから入ったすぐのところに入れる高周波増幅器のことである。同じ周波数を増幅する中間周波増幅器と違って、広帯域を低雑音で増幅する能力が求められる。増幅率だけで考えれば、高周波増幅も中間周波増幅も低周波増幅も同じなのだが、雑音の出方が異なる。どう異なるのかは、計算してみないとわからないが、原則として雑音は1/fなので、高周波ほど雑音が少ない。ところが、増幅器のノイズは、周波数幅の平方根で増えるので、周波数帯域が広い高周波増幅はノイズが多いことになる。プリアンプを入れると、Sメータで4個分くらい信号強度が増す。信号だけでなく雑音も強力になる。信号が強くなるとその後の中間周波、低周波増幅のゲインを下げることができて、雑音も下がる。実際には、AGCがゲインをコントロールしてくれるのだと思うが、その結果、SNが改善するかどうかが問題である。要は、プリアンプと、低周波アンプ(あるいは中間周波アンプ)のどちらが雑音性能が良好か、という問題である。実際にFT-991のプリアンプを入れたり切ったりして比べてみても、違いはわからない。メータが威勢良く振れてくれるのは気持ちいいが、了解度があがるわけではなさそうだ。

というわけで、効果無し。プリアンプは、HFにしか入らない。VHF以上ではメニューに出てこない。FT-911は、430でのSメータの振れが非常に悪い。それなりに聞こえていても、Sが全く振れない(S1どころか、ゼロ)ということがよくある。HFではプリアンプを入れるとS四つくらいあがるのだが、VHF/UHFではそういうごまかしもきかない。

3-2. AFフィルタ

AF (audio frequency) フィルタとして、notchフィルタとcontourフィルタを有効にすることができる。ノッチフィルタは、特定の周波数のゲインを下げる方向に働くし、contourフィルタは、持ち上げるように働く。特定周波数に雑音があれば、ノッチフィルタで除去できる。contourフィルタが効く局面というのは想像しにくいが、低減フィルタがあれば、増強フィルタもあるべきだろう。フィルタの中心周波数は、数百から3000Hzくらいまで選択することができる。幅は指定できないみたいだ。フィルタってのは、アナログ時代で言えばトーンコントロールなのだが、DSPでディジタル処理するので、中心周波数を変えたり、スロープを18dB/octにするなどできるのだろう。

推測するに、ノッチフィルタが良く効きそうなのは、CWの受信である。特定の周波数で混信があれば、除去できるだろう。二つ以上あると難しいね。そのときは、IFシフトを使うか。

3-3. DNRとDNF

いちばん効果がありそうなのが、DNR (digital noise reduction)というDSP機能である。off-onの他に、onでは、1-15の強度を選べる。強くしていくと、ノイズがどんどん小さくなっていく。減ってくれるのは、バックグラウンドの、ホワイトノイズだが、肝心の音声シグナルもかなり小さくなる。それでも確実にSNはよくなっていく。

しかし、了解度が良くなるとは限らない。音声自体がひずみを受ける。音声としては聞こえるが、何を言っているのかわからないことはある。

こうやってFT-991の音を聞いた後で、TS-670を聞くと、なんて音が良いんだろう、音が自然だと感じる。はやり、DNRは、相当にシグナルの音質を変化させている。TS-670は、シャーっというノイズも多いのだが、音は自然なので、了解度は悪くない。DNRが良く効くのは、やはり、CWの受信に対してなのかもしれない。音声(SSB)の場合の帯域幅は、2400HZくらいを中心にして、1800-3000Hzくらいを選択できるが、CWの場合は、100Hz以下の狭帯域にすることができる。そういうときもDNRは良く効くのではあるまいか。それにしても、TS-670の良さは再認識しました。

5. VHF, UHFとデジタルモード

145MHzは、相手がいないので試したことがありません。C4FMも、まだ試していません。
430MHzのFMフォーンは、感度も良くて、快適ですが、Sメータの振れが悪い。了解度は完全に5なのに、Sは1どころか、ゼロ(全く振れない)とはどういうことか。シグナルレポートを交換すると、相手が52で私が55だったりする。感度が悪いみたいで嘆かわしい。
RTTYもJT-65もまだ試していません。これらPCを使ったデジタルでは、USBからPTT信号をオンにできるかが問題なだけです。専用のプログラムがあるようです。

6. アンテナチューナ

HFに対しては、アンテナチューナが使える。それも自動型で、数秒間、リレーがカチャカチャ動いて、SWRが2以下になると運用可能になる。全然だめなアンテナでは、カチリと言った後、黙りこくって調整を断念してしまう。

このアンテナチューナのおかげで、ロングワイヤアンテナで。3.5MHzに出られるようになった。しかし、アンテナチューナというのは、送信機の出力段から見て、インピーダンスが合っているというだけのことで、実際のアンテナの働きがよくなるわけではない。アンテナが共振してくれるわけではないので、アンテナ能率はまったく上がっていない。だから、受信性能もよくならない。実際、このアンテナチューナの後に、外付けのSWRメータで見てみると、SWRは3とか8とかを指していて、パワーが載っていないことがわかる。

7. バンドスコープ

バンドスコープ(スペクトラムアナライザ)は、注目している周波数の周囲、数百KHzを1秒以下でスキャンして、信号強度を表示してくれる。周波数ダイアルを回して出ている局を探す手間が省けるのだが、それが役に立つのは、もっぱらVHF, UHFのFMモードのときだろう。SSBのように信号強度が変化するモードでは、信号なのかノイズなのか見当が付きにくい。ノイズに埋もれているようなカスカスの信号は、スペクトルで見ても何もわからない。ローバンドのように常にノイズでS6くらい振れていると、ノイズの上下も大きいので、よほど強力な信号でなければスコープでは識別できない。というわけで、バンドスコープは、FMでは大変重宝しますが。HFではあまり役に立たないのではないか?

バンドスコープのスキャン時は、一瞬、受信音が止まる。連続スキャンを選ぶと、受信音は全く出なくなる。IC-7300は、この点有利なのだが、上記理由により、HFだけのIC-7300では、やはり役立ち方も限定的ではあるまいか?


8.マルチファンクション・メータ

TS-670のメータは、受信時はSメータ、送信時は、パワー計あるいはALC計として使えた。FT-991では、この他にSWR計として使える。手持ちのSWR計は、VHF以上に使えないので、これは便利。

9.総合評価